おはなし

消えた頭巾

飛騨地方の日本昔話「消えた頭巾」。

くわしくみる

  • 文章:東方明珠
  • 朗読:川本知枝
  • イラスト:佐々木茉也
  • アニメ:ゆめある

本文

むかしむかしの おはなしです。
飛騨の 清見村 三日町に げんじという あらくれものが いました。
「おまえの 田んぼは おれの ものだ」
ひとの 田はたを どうどうと あらし、にわの たきぎも かってに うばってしまいます。
「かみも ほとけも あるものか」
あげくのはてには みちばたの おじぞうさまを けとばす しまつ。
「あいつには ちかづかないで おこう」
村人たちは げんじを さけて くらしていました。
ある日、村の 与平次と 孫蔵が じごく回りへ 出かけました。
じごく回りとは 立山の けしきを じごくに 見たて、おいのりしながら めぐることです。
「るすの うちに たきぎを いただこう」
げんじは ふたりの いえから ありったけの たきぎを ぬすみました。
かえりみち、風も ないのに げんじの あかい ずきんが ふわりと まいあがりました。
「どこへ 行く」
ずきんは まるで 生きものの ように 立山の ほうへ とんでいきました。
げんじは くびを かしげながら いえの 戸を 開けました。
そこには おそろしい 目つきの あかおにが 立っていました。
「うわあ!」
けれども、まばたきを した しゅんかん おには きえていました。
「まぼろしか」
ほっとして たきぎを おろすと、そこにも かなぼうを もった あおおにが いました。
「ひいっ」
しりもちを ついた げんじが かおを 上げると、やはり おにの すがたは ありません。
「さっきから おかしな ことばかりだ」
それから 三日たち、与平次と 孫蔵が たずねてきました。
「おまえたちが おれの いえに 来るなんて めずらしいな」
「わしらも ふしぎで たまらなくてな」
ふたりは じごく回りで おきた できごとを はなしだしました。
――
「ここが しゃくねつじごくか」
「おそろしい。おちたら いのちは ない」
そこへ あかい ずきんが ふわふわと ちかづいてきました。
「げんじ じゃないか」
「なにか ようすが おかしいぞ」
げんじは まっ白の かおを して むごんの ままです。
「そっちは しゃくねつじごくだぞ」
「あぶない」
ふたりが 止めるのも きかず ぐつぐつと わきたつ あなの 中へ おちていきました。
――
与平次は あかい ずきんを さしだしました。
「おまえさん これに 見おぼえは ないか?」
それは げんじが なくした ずきん そのもの でした。
げんじは せすじが ぞーっと つめたく なりました。
立山さまは これまでの あくじを すべて 見ていたのでしょう。
(おれは じごくへ おちるのか)
おそろしさと はずかしさで からだが ちぢむようでした。
げんじは 心を 入れかえました。
「こんにちは」
みちゆく 人には あいさつをし、おじぞうさまには 手を 合わせ、こまっている 人をたすけました。
はじめは こわがっていた 村人も やがて げんじを うけいれて なかよく くらしました。

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