おはなし
みそ買い橋
飛騨地方の日本昔話「みそ買い橋」。
- 文章:東方明珠
- 朗読:須田勝也
- イラスト:佐々木茉也
- アニメ:ゆめある
本文
むかしむかしの おはなしです。
飛騨の 乗鞍の 沢上に 長吉 という わかものが 住んでいました。
長吉は すみを うって くらしていました。
あるよる ゆめの 中に 白ひげを はやした 仙人が あらわれました。
「高山の みそ買い橋の たもとに 立ちなされ。よい はなしが きけるじゃろう」
長吉は さっそく 行ってみる ことに しました。
すみを うりながら たずねて 回ります。
「みそ買い橋は どこですか?」
「このへんには ないよ」
「みそ買い橋を しりませんか?」
「聞いたこと ないねえ」
すべての すみを うりおえて 長吉は みちばたに すわりこみました。
「やはり ゆめだったのか」
あきらめて かえろうかと いう とき おばあさんが やってきました。
「見かけない かおだね」
「沢上から 来た すみうりです。みそ買い橋を さがしていて」
「みそ買い橋なら あそこだよ。ほら、みそやさんの まえに あるじゃろう」
みそ買い橋とは 川の 向こうの みそやさんへ 行くための 小さな 橋 だったのです。
おばあさんに おれいを 言い、長吉は 橋の たもとに 立ちました。
「ここに いれば よい はなしが きけるはずだ」
けれども 橋を わたるのは みそやの きゃくばかり。
「いい おてんき だね」
「こんやの おかずは なんだい?」
ふつうの はなししか していません。
「せっかく ここまで 来たのだ。あきらめないぞ」
長吉は しんぼうづよく まつことに しました。
一日が すぎ 二日が すぎ……、とうとう 五日目の あさを むかえました。
よい はなしは いっこうに きけません。
そこへ、さんぽに 出てきた とうふやの ご主人が はなしかけて きました。
「おまえさんは ずっと そこに 立っているが なにか あるのかね」
「じつは ゆめの おつげが あったのです」
「ゆめだって?」
ご主人は はらを かかえて わらいました。
「そんなものを しんじて 五日も 立っているとは ばかばかしい」
「でも、仙人さまが おしえて くれたのです」
「それなら わしだって きょう 仙人の ゆめを 見たぞ。沢上の 長吉という 男の いえには まつの 木の 下に おたからが うまっているとな」
長吉は おどろきの あまり ことばが 出ませんでした。
「沢上なんて しらないし、わしは ゆめなど 信じないぞ」
ご主人は そう 言って、さっていきました。
「これこそ ゆめの おつげだ」
長吉は おおいそぎで いえへ かえりました。
とうふやの ご主人の ゆめの とおり まつの 木の ねもとを ほってみました。
すると、金銀ざいほうが ざっくざく。
「仙人さま ありがとうございます」
こうして しょうじきものの 長吉は ちょうじゃに なって ゆたかに くらしました。
