おはなし

耳なし芳一

武士の怨霊に呪われた盲目の琵琶法師のお話。

くわしくみる

  • 文:東方明珠
  • 声:川本知枝

本文

これは 世にも ふしぎな おはなしです。
あるところに 芳一(ほういち)という 男が いました。
芳一は 目が 見えません。
けれども、びわと うたが とくいでした。
お寺で びわを ひきながら ものがたりを うたう しごとを していました。

ある なつの よる、
ガシャン、ガシャン……。
とおくから よろいの 音が きこえてきます。
(おかしいな。おしょうさんは るすなのに)

おもい 足音が 近づき、芳一の まえで 止まりました。
「芳一、きてくれ。わたしたちに うたを きかせておくれ」
ひどく つめたい 手が 芳一を つかみました。
芳一は ふしぎに 思いながら、よろいの 男に ついて 行きました。

大きな 門の 音がして、とても 広そうな へやに つきました。
たくさんの 人が いるようです。
「いくさに まけた さむらいの かなしい ものがたりを たのむ」
ひくい 声が 言いました。

芳一は こころを こめて うたいました。
すると、みんな ないて しまいました。
「すばらしかった。あしたも きかせてほしい。ただし、だれにも 言っては ならぬ」
芳一は かたく やくそくして 帰りました。

つぎの よるも そのつぎの よるも、 芳一は おしょうさんに ひみつで うたいに 行きました。
「芳一の ようすが おかしい」
おしょうさんは ふしぎに 思い、でしに あとを おわせました。

すると、なんということでしょう。
芳一が おはかの まん中で うたっています。
そして まわりを おそろしい 火の玉が ぐるぐる まわっています。
でしは あわてて 芳一を お寺へ つれて 帰りました。

芳一は さむらいの ゆうれいに とりつかれていました。
「つぎに 行ったら ころされるだろう」
おしょうさんは むずかしい かおをして 言いました。
こんやは そうしきが あり、るすに するのです。

「からだに おきょうを 書いておこう。そうすれば ゆうれいから 見えない だろう」
おしょうさんは 芳一の からだ中に おきょうを 書きました。
「けっして しゃべっては いけないよ。声を 出したら すがたが 見えてしまうから」

まよなか、よろいの 音が 近づいて きました。
「芳一、どこに いる」
芳一は おそろしいのを がまんして だまっていました。
さむらいは 芳一を さがして 目のまえ まで やってきました。
「おかしい。耳だけ ここに ある」

なんと、おしょうさんは 耳に おきょうを 書きわすれていたのです。
「しかたがない。耳だけ もらっていこう」
つめたい ゆびが 芳一の 耳を ひっぱりました。
はげしい いたみに おそわれて、芳一は たおれて しまいました。

よが 明けて おしょうさんが 帰ってきました。
そこには、耳から ちを ながした 芳一が いました。
「わしの せいだ。ゆるしておくれ」
おしょうさんは ないて あやまりましたが、 芳一は もう なにも きこえませんでした。

芳一の ふしぎな はなしを きいて、お寺には 多くの 人が あつまりました。
ひとびとは 芳一の すばらしくて かなしい うたを きいては、 なみだを ながしたのでした。

くわしくみる

  • 文:東方明珠
  • 声:川本知枝
  • 絵:紺島

本文

これは 世にも ふしぎな おはなしです。
あるところに 芳一(ほういち)という 男が いました。
芳一は 目が 見えません。
けれども、びわと うたが とくいでした。
お寺で びわを ひきながら ものがたりを うたう しごとを していました。

ある なつの よる、
ガシャン、ガシャン……。
とおくから よろいの 音が きこえてきます。
(おかしいな。おしょうさんは るすなのに)

おもい 足音が 近づき、芳一の まえで 止まりました。
「芳一、きてくれ。わたしたちに うたを きかせておくれ」
ひどく つめたい 手が 芳一を つかみました。
芳一は ふしぎに 思いながら、よろいの 男に ついて 行きました。

大きな 門の 音がして、とても 広そうな へやに つきました。
たくさんの 人が いるようです。
「いくさに まけた さむらいの かなしい ものがたりを たのむ」
ひくい 声が 言いました。

芳一は こころを こめて うたいました。
すると、みんな ないて しまいました。
「すばらしかった。あしたも きかせてほしい。ただし、だれにも 言っては ならぬ」
芳一は かたく やくそくして 帰りました。

つぎの よるも そのつぎの よるも、 芳一は おしょうさんに ひみつで うたいに 行きました。
「芳一の ようすが おかしい」
おしょうさんは ふしぎに 思い、でしに あとを おわせました。

すると、なんということでしょう。
芳一が おはかの まん中で うたっています。
そして まわりを おそろしい 火の玉が ぐるぐる まわっています。
でしは あわてて 芳一を お寺へ つれて 帰りました。

芳一は さむらいの ゆうれいに とりつかれていました。
「つぎに 行ったら ころされるだろう」
おしょうさんは むずかしい かおをして 言いました。
こんやは そうしきが あり、るすに するのです。

「からだに おきょうを 書いておこう。そうすれば ゆうれいから 見えない だろう」
おしょうさんは 芳一の からだ中に おきょうを 書きました。
「けっして しゃべっては いけないよ。声を 出したら すがたが 見えてしまうから」

まよなか、よろいの 音が 近づいて きました。
「芳一、どこに いる」
芳一は おそろしいのを がまんして だまっていました。
さむらいは 芳一を さがして 目のまえ まで やってきました。
「おかしい。耳だけ ここに ある」

なんと、おしょうさんは 耳に おきょうを 書きわすれていたのです。
「しかたがない。耳だけ もらっていこう」
つめたい ゆびが 芳一の 耳を ひっぱりました。
はげしい いたみに おそわれて、芳一は たおれて しまいました。

よが 明けて おしょうさんが 帰ってきました。
そこには、耳から ちを ながした 芳一が いました。
「わしの せいだ。ゆるしておくれ」
おしょうさんは ないて あやまりましたが、 芳一は もう なにも きこえませんでした。

芳一の ふしぎな はなしを きいて、お寺には 多くの 人が あつまりました。
ひとびとは 芳一の すばらしくて かなしい うたを きいては、 なみだを ながしたのでした。

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