おはなし

注文の多い料理店

二人の猟師が迷い込んだ料理店でおきた怖い体験。
怖いお話なので、小学校低学年以上を推奨します。
原作は「雨ニモマケズ」「銀河鉄道の夜」などでおなじみの宮沢賢治です。

くわしくみる

  • 文:東方明珠
  • 声:川本知枝
  • 絵:中田喜久
  • 原作:宮沢賢治

本文

これは 世にも ふしぎな おはなしです。
二人の わかい しんしが 山へ かりを しに きました。
「あん内 やくの りょうしは どこだ?」
「犬たちも はぐれて しまったぞ」
どうやら みちに まよった ようです。

「おなかが すいたな」
へとへとに なったころ りっぱな いえが 見えてきました。
ぴかぴかの ガラスとびらに 金の 文字で
【レストラン 山ねこてい】
と 書いて あります。

「行ってみよう」
白い レンガの げんかんを くぐると 水色の とびらが ありました。
【こちらは ちゅうもんの 多い りょうりてん です】
二人は よろこび ました。
「こんな 山おくで 人気てんを 見つけたぞ」

中へ すすむと ふたたび 赤い とびらが ありました。
【おきゃくさま、ここで かみを とかして くつの どろを おとしてください】
わきには かがみと ブラシが あります。
「きっと えらい 人が くる みせ だからさ」
二人は いそいそと みじたくを ととのえました。

先へ 行くと また 黒い とびらが ありました。
【てっぽうと たまを ここへ おいてください】
「なるほど。しょくじに てっぽうは いらないな」
二人は 書かれている とおりに しました。

【ぼうしと コートと くつを ぬいでください】
【めがねや アクセサリー、とがった ものは ぜんぶ はずしてください】

「ずいぶんと マナーに きびしい みせだなあ」
「また とびらが あるぞ」
とびらの 前には ガラスの つぼが ありました。

【つぼの 中みを かおや 手足に ぬってください】
それは 牛にゅうの クリーム でした。
「はだあれに ききそうだ」
「めずらしい サービスだな」
二人は かおと 手、そして くつ下を ぬいで 足の うらまで よく すりこみました。

いよいよ さいごの とびらです。
【りょうりは あと 15分で できます。はやく こう水を ふりかけてください】

二人は 金ぴかの こう水ビンを あたまへ ふりかけました。
ぷーんと すっぱい においが します。
「へんだな」
入ってきた とびらの うらには こう 書いて ありました。

【ちゅうもんが 多くて うるさかった でしょう。これで おわりです。つぼの 中の しおを たくさん もみこんで ください】

二人は かおを 見合わせました。
「ぼくたちが ちゅうもんされた みたいだ」
「りょうりを たべるのは ぼくらでは なくて……?」
おそるおそる へやの おくを 見ました。

そこには 大きな とびらがあり、かぎあなから 二つの 青い 目玉が のぞいていました。
「たべられるのは ぼくらの 方だ!」
入ってきた とびらは びくとも ひらきません。
「おきゃくさま、さあ さあ どうぞ おくへ お入りください」
しわがれた 声が へやに ひびきます。
二人は がたがた ふるえました。

そのときです。
「わん わん ぐわあ!」
二ひきの 犬が とびこんで きました。
犬たちは おくの とびらを つきやぶり、へやへ かけこんで いきます。
「にゃあお、くぅあ、ごろごろ」
山ねこの さけびが きこえ、あたりは しずかに なりました。

いつのまにか レストランは けむりのように きえていました。

二人は うすぎで 草むらに 立っています。
あたりの 木の えだには コートや くつや さいふが ぶらさがって いました。
「だんなー」
はぐれた りょうしが 草を かきわけ やってきました。
二人は ようやく ほっと あんしん しました。

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